☆04年型ホンダ スマートDio Z4


 ホンダの50cc原付スクーター、スマートディオZ4(ズィーフォー)がモデルチェンジされた。その最大のポイントは、50ccクラスで世界初のFI=フューエル・インジェクション装備である。
 FIなどクルマの世界では常識であり、キャブレター装着車は新規販売されるクルマからとっくの昔に姿を消している。当初の目的は石油ショック時代における燃費改善。やがては排ガスのクリーン化のために欠かせないものとなった。車両価格が高額で、また車重も重いクルマにおいては、FI化によるコストや重量の増加パーセンテージはたいしたものではないので普及させやすかったという要因もある。
 そして、省燃費や排ガスのクリーン化は二輪車の世界でも求められる時代となった。パーツ類の軽量小型化、クルマよりはるかに繊細さが要求されるレスポンス特性といった問題を解決しつつ、高性能&高級モデルからFI化が急速に進んでいる。
 しかしながら、原付50ccクラスはFI化が難しい。路上を走る台数が最も多いクラスだから本来なら真っ先にFI化するべきではある。ではあるが、小型軽量化がとくに要求され、他のクラス以上の大幅な低価格化も極めて重要、バッテリー完全放電での始動性も要求されるなど、困難な技術的課題が多い。その難題を真っ先に解決したのがホンダだ。
 世の中は変わる。変えていかなければならない。その先頭に立ったモデルに試乗した。以下はそのレポートだ。なお、文章中の図版類はホンダ提供である。


●2ストローク車と同等の走り


 確かに省エネ低公害が主題のモデルではあるが、所詮は乗り物。サクサクと街を走れるか否かがまず問題だ。そして乗ってみての感想は、満足できるものだった。
 始動性は当然いい。各ジャーナリストがとっかえひっかえ試乗する状況なので、寒い次期のエンジンが完全に冷えた状態、あるいは1ヶ月以上も放置した状態での始動性については試していないのだが、そうした始動性にも技術陣はかなりの自信を見せていた。
 発進。エンジン回転がやや上がった状態から、遠心クラッチが少しばかり急激にミートする特性であり、僕としてはこういうのは好きではない。ただ、このモデルのメインターゲットは若年層の男性で、元気のいい発進加速、あるいは「元気っぽい加速感」を演出するため、これは意図的に与えられた特性だ。
 そんな特性が与えられていても、バイクが動き始めてからの1〜2秒間は、2ストロークほどググッと押し出される感じはない。ないけれども、実際にはズイズイ車速が乗っていく。じつに滑らかに、かつストレートに車速が乗る。30km/hは、本当にすぐに出てしまうのだ。

 その後の車速の伸びもいい。法定速度は30km/hじゃないかと説教されようとも、都会の道路を走るには、もう少し上の速度が簡単に出なければ怖くてたまったものではない。それが現実だ。で、この新型ディオの場合は50km/hまでサッサと出て、その気になればフルスケール60km/hの速度計を振り切ることすら難しくない。
 今までの4ストローク50ccスクーターとは全然違う。クレアスクーピーなど、信号からの発進では常に背後のクルマへ気を遣い、急な登り坂では足でこぎたくなるほどなのだが、コイツはそんなことがない。スクーピー比で0.4馬力、従来型ディオZ4比では0.3馬力の最高出力向上だが、その数字以上の差を感じる。まあ、向上馬力の数字は小さいけれど、向上率をパーセンテージにしたら大きいのだから当然か。
 2ストローク車と同等の性能という謳い文句は本当だった。試乗したのは東京のど真ん中、青山界隈だったのだが、まったく不都合を感じなかった。片側3車線の道路でまともにクルマの流れに乗る……ということは50cc原付では違法行為になるのであり、一番左側の車線を走るのが原則なのだけれど、脇道から登場した無礼な車を避け2番目の車線に出て追い越すといったことも自然にできた。
 そんな動力性能と同時に、快適性の面でも優れている。極めて低振動で、かつ排気音もメカノイズもよく抑制されている。回転フィールとしても、じつに滑らかで気分がいい。文字通りスマートで上質。2ストロークの元気というのも、いまだに僕は好きではあるが、しかしこの新型ディオに乗ってしまうと、やはり時代は変わったなと納得せざるを得ない。


●50ccスクーターでは世界初の4バルブ


 この新型ディオは、従来型の車体や駆動系などを基本的に継承しながら、そこに複雑化しがちな新機軸をコンパクトにして盛り込んでいる。とはいえ、水冷4ストロークエンジンは単に吸気系をFI化しただけではない。そのヘッドまわりはSOHCながら4バルブ化されているのだ。排気量50ccのスクーターとしては、世界で初めての4バルブエンジン採用である。

 上の右図では、4バルブ化の利点として吸気面積の拡大を挙げているが、おそらくそれ以上に重要なポイントは、点火プラグが燃焼室中央に配置できることである。中央点火は高出力化につながると同時に、将来、さらに排ガス規制が厳しくなった場合に、吸入混合気をもっと薄くしつつ確実に燃焼させるために必要なメカニズムでもあるのだ。
 また、ロッカーアームはベアリングを使用したローラー式を採用。これによる低フリクション化は出力の向上にも寄与するが、メカノイズの低減、そして燃費の改善に効いている部分も大きい。ヤマハの新型ビーノ(50cc3バルブ)などもローラー式ロッカーアームを採用したが、ピーク回転がそこそこのこうしたモデルでは、一般的なロッカーアームからの重量増加も大きな問題とはならない。ちなみに、ローラー式ロッカーアームというものは、クルマの世界ではちっとも珍しいものではない。
 とにかく、こうしてエンジンのベース性能を高めたのだ。馬力やトルクといった基本的な性能は、FI化したって向上するものではない。トルク/馬力ともに全回転域にわたって従来型ディオを上まわっており、とくにその差はピーク回転域付近において顕著である。


●原付FI化の技術ポイント


 肝心のFIだが、50ccクラスの原付に採用する上での最大の問題点は、小型軽量化と低コスト化である。小さな車体にその機能を納めなくてはならず、また、趣味商品のスポーツバイクとは異なり生活用品であるこのジャンルでは高価でも高性能であればよいというものではない。そして小型軽量化と低コスト化は、やりようによっては同義語になる。各種機能部品を統合していくモジュール化がそれだ。上の図は、大型モーターサイクルの例としてVFR(800)を挙げて比較したものであり、部品点数は半減している。結果、FIまわりのコストはキャブレター方式とほぼ同等。車両価格が従来型より1万円アップしたのは、4バルブ化による部分と理解していい。つまり、ジョルノクレアなど性能向上を目指さないモデルでは、現行型と同等の価格のままFI化できるということだ。

 もちろん物理的な理由からの小型化も必要である。上左写真はフィルター一体の燃料ポンプ部分。既存の輸出用125ccFIモデル(東南アジア向けのパンテオン)では高さが2倍以上もあり、そのままでは小さな50ccのスクーター形状ではフラットフロアに仕上がらなかった。
 また、小排気量ならではの難しさのひとつに、アイドリングなど低回転低負荷時の回転安定性確保がある。排気量が少ないのだから、低負荷時に要求される燃料噴射量は極めて少ない。その少ない燃料を正確に噴射するため、2孔型の超小型インジェクターが新規開発された。パンテオン比で3分の1の燃料量を正確に噴射し、なおかつ世界最高水準の微粒化も達成している。また上の右側の写真と図はモジュール化されたスロットルボディまわりだが、ここには超小型ステッピングモーターを使用するなど最新技術を駆使したアイドル時用エアバルブも組み込まれている。これによる正確なエア計量が新型インジェクターと合わさったとき、初めて安定したアイドリングが可能になる。

 もうひとつ、原付スクーターならではの難しさが、バッテリー完全放電時の始動性だ。元来が長距離走行などしないモデルである。加えて、ときには1ヶ月近くも放置される。結果、バッテリーが完全にあがってしまうことは珍しくない。でも趣味商品ではなく生活道具だから、使いたいときにはすぐに走り出せなくては失格だ。ところが、FI機構はすべて電気仕掛である。
 ディオの場合、1回のキックでのクランクは3回転する。時間にして、わずか0.2秒。この間に、発電→ECU(制御コンピューター)の立ち上げ→燃料ポンプ起動→インジェクター作動での燃料噴射→点火プラグへの放電……これら一連の仕事をすべてやらなくてはならない。
 上は、それを可能としたシステムの概念図。最大のポイントは、ジェネレーターが発電した電気の使い道に優先順位を付け、切り替えたことだ。キック始動時はバッテリー充電やヘッドライトなどへの回路をシャットアウトし、まずはECUを立ち上げて……といった具合である。加えて、燃料ポンプの省電力化も重要な要素だったという。

 何気なく、普通に使えるFI方式の4ストロークの50cc原付スクーター。それは、こうした技術により完成した。排気ガス中の一酸化炭素とハイドロカーボンの量は、現行規制値の半分にまで減らすことができている。燃費は30km/h低地走行において従来型比7%アップ。そして、当然ながらFIならではの、始動性やアイドル安定性などキャブレター方式より優れた部分も上図のようにある。
 このページをご覧の方々は、多くがバイク好きであろう。そういう人々に向けたマニアックな商品の、マニアックな技術はもちろん面白い。だが、二輪車が世の中に生息していくために最も重要なのは、こうした生活用品たる実用二輪車がしっかりと社会に適合するだけの{性能}を備えること、その性能を実現するための{技術}が開発されることかもしれない。バイクなんてごく一部の存在だし少々排ガスが汚れていてもいいじゃん、なんて時代はとっくに終わっている。
 ホンダは、2005年を目標年次として、二輪車の排ガスのクリーン化と省燃費化を進めてきた。1995年比で新車のハイドロカーボン総排出量を3分の1にする目標は2002年末に達成。平均燃費を30%向上させる目標も、2002年末時点ですでに29.5%向上までいっている。当初の予定の大幅な前倒しと技術陣は胸を張る。そして今回の50cc原付FI化だ。2007年末までには、国内向けに発売するすべてのスクーターをFI化するという。
 今後、ホンダを追う形でヤマハやスズキからも50cc原付のインジェクション車が登場すると思われる。その市場普及率もさることながら、バイク好きとしては、コストダウンのためのものも含めた、そこに駆使される最新技術に注目していきたい。