☆04年型国内向けホンダCBR1000RR


 この春、欧米でデリバリーが開始されたホンダ・スーパースポーツの旗艦CBR1000RR。日本への逆車入荷は遅れ気味のようだが、早々に国内仕様が4月20日より発売となった。発売に先立つ4月第3週、箱根のホテルを基点に一般公道を使用するプレス向けの発表試乗会が開催された。これはそのレポートである。
 サーキットでの試乗会はすでにもてぎで開催されており、そのレポートは下記のバックナンバーにあるので、合わせてお読みいただきたい。その後スペインでのライバル比較試乗もあり、クローズドコースでの走行は経験してる。しかし、CBRで一般公道を走るのは今回が初だ。
 結論を言えば、まあまあ、といったところ。エンジンパワーを自主規制値に納めたことが加速性能のみならず操縦性のキレにも影響を与えていたが、それを解決するのは難しい問題ではない。近いうちに、フルパワー車で公道を走ってみたいものだ。車両の論評もさることながら、超高性能化して一般人からは縁遠いものとなりかねないこのバイクを、どういう考えの基に開発したのか、開発担当者諸氏とじっくり話し込めたことがこの取材での大きな収穫だった。
 ところでこの国内向けCBR1000RR、販売計画台数は年間2000台である。けっこう多い。本体価格115万円という高額バイクで、また逆車も多く出まわる状況においての台数だ。しかし、すでにこのプレス試乗会の時点でユーザーからの受注が1000台入っていると聞いた。なかなかの人気であり、購入予定があるなら早めに発注したほうがいいかもしれない。


●ストック状態での加速感はかなり寂しい


 低回転域から加減速チェックをしつつ、次第に回転を上げていく。パワーのつながりのスムーズさは、じつに見事である。また滑らかな走りの中に、硬質で精度の高い部品が正確に作動しているような感触、ホンダのスポーツエンジンらしい回転フィールもけっこう味わえる。ただし右手を大きくひねっても……なんだかパンチがない。
 場所を移動し、一発全開にできるところでチェックし直す。6000rpmあたりでパワーが盛り上がり始める兆候が現れる。いいよいよか、と思うのだけれどもたいした盛り上がりもないまま、9000rpmあたりからは惰性で回るだけの感じとなってしまう。
 遅いと思った。自主規制で最高出力は94馬力に抑えられる(排気量比例から100馬力ではない)のでたいして期待してはいなかったが、想像以上に遅く感じた。フルパワー仕様でも加速感が意外とないことは先にレポートしているが、そう感じる原因のひとつ、極めてスムーズなパワーのつながり方を踏襲しつつ、全体にパワーダウンさせ、かつ高回転側を大きく抑え込んである。一方で車体は高荷重に耐える(それも安定性指向の強い)フルパワー仕様そのまま。これでは、加速感がなくても当然であろう。中速域だけガンッとトルクを立ち上げて加速感を、というような小細工がこのバイクに似合うはずもない。仮の姿として納得するしかないだろう。
 本来の姿なら、脅迫的な加速感はなくても6000rpmあたりの中速トルクがけっこうあり、公道での実質的な動力性能はYZF-R1やZX-10Rを上まわる可能性が多々あることを付け加えておく。


 車体はサスセッティングなども含めて基本的にフルパワー仕様と同じである。そしてハンドリングの印象は、日本の公道の路面と速度域でもサーキットで得たものとほとんど変わらなかった。
 駐車場を出る最初の曲がり角から、意識せずにスイスイ曲がれる。連続するタイトコーナーも下見などすることなくガンガン行ける。路面がうねった高速コーナーも平然と通過した。ややネッチリと糸を引くようなロールの手応えが常に一定で、スッときれいに目的のバンク角に収まり、あとはバンク角に比例してズイーッと曲がる。乗り方が多少どうでも、ビシリと安定してECUにインプットされたがごとき走行ラインをトレースしていく。
 この安心感の高さは、ちょっとほかにはない。装着されていたタイヤはもてぎのときと同じピレリ製だったが、一定以上のバンク角から先でフラリと倒れ込むような現象は、今回の試乗では現れなかった。
 ということではあるが、ごく細かく言うと、コーナーに進入していくところでの回頭性がわずかに鈍い。フロントが、若干だがインへ入り込みにくく、フルパワー仕様ではそんなことは感じたことがなかった。当初はステアリングダンパーの影響かと思ったが、曲がり込んだコーナーでは後半の旋回もやや弱いのだから違う。そしてコーナーの中間付近は問題ないのだ。とくに低速コーナーでそんな感じを抱いた。どうも、輸出仕様とのパワー特性の違いが影響しているらしい。フルスロットル走行でなくても、そして減速時でも(加減速の駆動力の差)、トラクションによる旋回効果の違いは出る。切り返しでの挙動のキレも、やはり若干だが低下しているようだ。
 なお、電子制御式のステアリングダンパーHESDの効果を正確にテストする状況に今回は出会えなかったが、低速コーナーでギャップを通過したとき、従来モデルのCBR954RRファイアーブレードよりも、ステアリングの挙動が安定していると思った。スペイン試乗での経験も含めて考えると、フロントエンドの安定性はクラス一番、としてよさそうだ。この機構のおかげで、954よりステアリングオフセットを10mmほど減少させるアライメント設定としたにもかかわらず、誰もが安心して走れる操安にできたのだという。低速でのハンドル操作がちょっと重いのは我慢するべきか? 前輪からのインフォメーションが減少する面も含めて、僕はステアリングダンパーが好きではない。けれど、確かにカワサキのZX-10R(ステアリングダンパー否装備)などは状況により少々神経質なときもあり、車体の仕様がそこまで運動性を重視する時代になったということなのだろうか。
 ブレーキに関しては、サーキットではそれほど感じなかったのだが、フロントがとにかくよく効く。40km/h以下だと指一本で簡単にリヤが浮き上がるほどだ。制動時の車体安定性が悪いというのではなく、高速からのフル制動ではやたらとリヤが浮き上がることはない。純粋に効力が高いのだ。そして入力に対してリニアに効力が出てくるから、少なくとも良質路面でのコントロール性は悪くない。ただ、絶対効力が高い分、入力初期からかなり効力が立ち上がってくるので、スリッピーな場面ではどうか? また、強く握り込んだところでの、前輪のグリップ限界がちょっと把握しにくいように思えた。


●高性能をより多くの人に……


 国内仕様では、世界一厳しい騒音規制に適合させ、さらに馬力自主規制値に合わせてパワーダウンさせる必要がある。その部品は、たとえば上のようなものだ。左端の写真はスロットルボディの入り口に付くエアファンネル、次はエアクリーナーで、ともに左側がフルパワー仕様のものである。右の2カットはラムエアダクトで、入り口側も出口側も一部が蓋で塞がれている。排気系も当然絞られていて、マフラーのテールパイプを見ればそれは明らかだ。下の左写真、ストリップ状態のマフラーが輸出仕様のものである。まあ、その気になればこれらの部品を交換しECUをいじる費用は数万円の桁であろう。どうせマフラーは社外品を付けるという人も多いのではないか。


 それにしても、なぜここまで手をかけて国内仕様を作るのか。逆に外国製とか逆輸入だと、なぜ違う基準でOkなのか。じつは、外国製バイクは正規輸入であっても現在のところ車検を受けているだけなのだ。日本メーカーの場合は、国内生産モデルを、公的な型式認定を取得せず表だって国内販売するわけにはいかない。馬力に関しては法規ではないが、そこは日本の役所と企業の関係である。一度輸出しておいて子会社に逆輸入させる方法もあるが、ホンダは以前からこうした高性能モデルの正規国内仕様を製作してきている。もちろん赤字を引いてまでやっているわけではないが、車検と認定という『2種類のレギュレーション適合車』が存在するダブルスタンダードの問題を明確化し改善していく、という要素が大きい。なんとなく釈然としない気もするが、そうした地道な活動は近々報われそうだという。


 試乗を終えてから、昼食を取りつつ開発陣の方々と話す機会が得られた。国内認定が通る状態に仕上げるため、文字にすれば膨大な量になる改良(?)作業の積み重ねがあったようで「ご苦労様」と心の中で呟いたが、それに関する具体的な話はあまりしなかった。要は結果だ。
 この日を含めて何度かの試乗で得たCBRやライバル車に関する僕の印象と、彼らの見方を突き合わせてみると、客観的事実としての捉え方は、だいたいのところ相違なかった。ホンダの朝霞研究所でもすでにYZF−R1やZX-10Rは購入して走り込んでいる。
 その事実確認が終わったあたりで、彼らは言った。R1や10Rほどレース指向には振れなかったと。R1と10Rを一緒くたにするとは? と一瞬疑問を持ったが、彼らの言わんとするところはエンジンの超高回転化の部分であった。確かに、13000rpm回る痛快さと高性能への夢はあっても、公道が舞台となれば、その高回転パワーをいったいどこで使うのかという問題は厳然としてある。レブリミッターが効くまでブチ回せば、1速ギヤですら160km/hを超える。その夢の部分、及びレース仕様とした場合のポテンシャル確保のため、公道でスポーツするのに重要な6000〜8000rpmあたり、あるいはもっと低い回転域のトルクを犠牲にしてしまっていいのか、ということだ。
 ただ、低中速トルクが弱いとはいえ、10Rはそこでもガンガン吹け上がっていくエキサイトメントがある。そのあたりの、感性の味付けのうまさはホンダ技術陣も認めるところだった。
 そして僕は問いかけた。R1はCBRほど低中速トルクがないしトルクの谷もある。が、コーナーでスロットルを当てるとリヤサスが反応し→所定のストローク位置の収まり→トラクションがかかって、というプロセスが公道でも明確に体へ伝わってくる。右手とケツでバイクを操る実感がある。そういうところがCBRでは希薄なのではないか、と。彼らは答えた。ユニットプロリンクのリヤサスはそのあたりが少しね、と。減衰特性のセッティングとかで調整はしているようだが、バネ下の重さがそうした挙動自体、及び体に伝わるものを鈍くしている。ただ、ユニットプロリンク方式は外乱に強く、またパワーをかけていったとき後輪が急激に横方向へスライドしにくいといった、スタビリティの高さでは非常に優れている。レースポテンシャルはこの際どうでもいいのだが、そうした特性は公道バイクとしての長所だ。安全である。
 だが、と僕は続けた。
 右手とケツで操る愉しみというのは、バイクスポーツの基本のひとつ。いや、リヤサスのレスポンスでなくたっていい。バイクとのコミュニケーションを愉しむという部分をどこかに、もっと強く出してもいいと思う。そのために、万人向けではない特性が出たとしたっていい。スーパースポーツなのだから。ところが、レースの絶対ポテンシャル確保を前提としたバイク作りにしたから、そういうオモチャとしての面白さを作りにくかったのではないか。
 違う、と彼らは言った。
 ファイアーブレードの基本は公道スポーツ。これは初代から変わらない。ただ今回のモデルでは、ポテンシャルを大きく高めつつも、今まで以上に幅の広いユーザーに乗ってもらえる、乗って楽しめる特性に仕上げることを主題にした。特別な乗り方などしなくても、スーパースポーツの世界を堪能できる、世界最高水準の性能を愉しめる、そういうバイクにするべく開発してきた、と。
 実際はもちろんレースへの対応も入念に考慮した作りになっているが、フェイルセイフ的な乗り味はその結果ではないということだ。これは僕の予想と違っていた。過激化する、過激化せざるを得ない性能競争の中で、公道スポーツとして存続し続けるためにホンダが導き出した答がCBRなのである。言ってみれば『みんなが乗れる高性能』で、まさにそのとおりの仕上がりだ。
 これはひとつの正解である。ただ、二輪車に本当のフェイルセイフはあり得ない。ましてやスーパースポーツの頂点に立つジャンル。小排気量車から乗り始めてそれなりに経験を積み、バイクを制御する意識を明確に持った人間以外は、またがるのを躊躇するようであっていい。真面目に乗らんヤツ乗るな! みたいなバイク作りでいいと僕は思うのだが、ビジネスとしてバイクを作る企業にそれは難しいかもしれない。
 いやいや、それ以前に、極端に挑発的なバイクばかりになって、ほとんどの人がスーパースポーツに乗らなくなったら、スーパースポーツの世界が消えてしまいますよ。というように反論されれば、なるほどそれも一理ある。
 要は、バイクが乗り手にコントロールを要求する、その度合いの落としどころであろうか。スーパースポーツは今、重要なポイントに立っていると思う。