☆二輪車用のICカード試行運用開始


 2000年の1月、ポルトガルへ行ったときのこと。高速道路でほとんどのクルマが速度も落とさず、料金所をビュンビュン通過する様子に驚いた。もちろん、料金所渋滞なんて存在しなかった。自動車専用道路に有料区間があるというのは、本当の意味で洗練された道路行政国家ではないかもしれない。が、それにしても、ヨーロッパの中でも田舎だと想像していたポルトガルで、日本よりはるかに進んだ道路行政が実施されているのを目の当たりにし、驚嘆するやら悲しくなるやらの思いであった。
 その後、日本でもETC普及行動が急速に進められた。個人情報を収集する目論見からか、欧州などよりも高度(=複雑)なシステムを構築したため、機器が高価であったりゲート通過速度が低かったりという問題はある。実際の普及が今ひとつ進まず、ガラ空きのETCゲートの横に渋滞の列が存在する状態が、まだある。それでも、高速道路など自動車専用道路の効率的な利用インフラが整いつつあるのは確かだ。
 ところが、料金所通過で最も手間がかかる二輪車に関しては、現実的にETCの恩恵の外に置かれていた。一方で、高額ハイカは廃止とはどういうことか! という突き上げもあり、これじゃいかんと国土交通省の指揮の下、二輪車用のシステムが模索された。
 そして2003年8月29日より、上の写真のような機器を設置しての試行運用が開始された。僕は諸般の都合により運用開始日に試すことはできなかったが、9月4日にさっそく使ってみた。


●国土交通省の指揮で実施されるシステム

 国土交通省の外郭団体、(財)道路新産業開発機構が試験実施したのは、非接触ICカードを使うもの。正式には『自動二輪車の効率的な料金支払い方式に関する試行運用 非接触ICカード方式』という。実施地域は、関東が中央高速の一部と八王子バイパス、関西は西名阪道の一部だ。
 2003年7月10日より8月29日までの間にモニターを募集(表記上は先着順で1000名)し、8月29日正午より試行運用を開始。試行運用は2004年3月中旬までの予定だ。応募したモニター希望者は、web上での講習会(任意の時間にPDFファイルのマニュアルを読む)に参加し、使用方法などに関する試験に合格する必要がある。
 試験といっても、マニュアルを見ながら何回でも受験できるもので、要はマニュアルをちゃんと読んだかどうかのチェックだ。僕は9月2日の夕方に受験/合格した。そして9月4日の昼に、速達の簡易書留で届いたのが、写真のカードとカードホルダーである。このほか試験の合格通知書、及び試験のときに使用したマニュアルのPDFファイルをプリントアウトしたものも同梱されていた。もちろん、写真のジッポーは付いてこない。


●実際に使ってみる

 これが、そのカード。ライダーたちの間では「二輪用ETC」などとも呼ばれているが、ETCとは使い方がだいぶ異なる。要は、JR東日本などが運用しているスイカ(Suica)のようなものと思えばよい。ICチップが組み込まれたカードであり、これを料金所ブースや通行券発券機付近に設けられた読みとり機に『かざす』のである。
 非接触型なので読みとり機に直接、接触させる必要はなく、薄手のケースや財布などに入れたままでも読みとり可能なのだが、マニュアルでは『完全に停止してカードを読みとり機にタッチすること』を前提としている。停止せず安易にかざすだけでは読みとりミスが発生する可能性があり、そこで急停止したりすれば、JRの改札口と違って事故も起こりかねないからだろう。


 そこで心配になったのが、同梱されてきたカードケースでる。ビニールのケースにカードを入れ、そのケースに付けたコード巻き取り式クリップをポケットの縁などに留める構造。クリップ部が頑丈にできていたり回転するようになっていたりと、それなりに工夫した様子は見られる。確かに、カード単体で財布などに入れておいたのでは出し入れに手間取るし、読みとり作業中に落とせばさらに面倒である。コード付きケースは、あったほうがいい。
 だが同梱のケースは、通常のワイシャツの胸ポケットにカードを入れる発想であり、ライダー感覚からすると首を傾げてしまうものだ。ライディングウエアでは、ポケットにはフラップやジッパーがあるのが普通である。当SALIDAのMLなどでも、走行中に風で飛ばされそうで不安だった、という投書が複数あった。スキー場のリフト券ケースを試してみるつもり、という投書もあった。
 まあ、実際にこの方式がスタートすれば、二輪車の用品メーカーなどからもっと使いやすいものが登場するだろう。とりあえず僕は上の写真のように、コードの先端部10cmほどのところに、事務用のクリップ『ガチャック』を付けた。コードが完全に巻き取られないようにし、ポケットなどに入れやすくしたのである。そして……。
 僕はこんな様相で出かけることにした。
 バイク用品のコインホルダーに、カードをケースごと入れたのである。クリップは、ウエストバッグのベルト部に付けた。ウエストバッグなしでズボンのベルトに直接、小型ポーチやクリップを装着しても同じことである。実際にはこんな気配りをしなくても、クレジットカードを使って通行するときと同じように考えればいいのだが、そこは僕の性格である。で、イザ出発。


 ここは、中央高速道路の調布インターチェンジ。高井戸から八王子までの定額区間の中にあり、入り口で料金を支払う方式となっている。その料金支払いブースに、カード読みとり装置が設置してあった。冒頭の写真も同じ場所である。カードを『タッチ』しているシーンも撮影したかったが、通行量が多い中で、ひとりでそれをやるのはかなり難しく諦めた。
 なお、走行距離に応じて通行料が課金される区間の入り口では、通行券の自動発券機の脇に読みとり機が設置される場合もある。
 さて、料金所通過は簡単だった。写真のように、読みとり機の右にあるインジケーターボックスの、一番左の青ランプ点灯(機器作動中)を確認。カードをタッチすると、その右の緑ランプ(読みとり完了)が点灯。それで終わりである。定額区間だけを通行したので、出口での操作はなかった。
 僕は通常、高速道路などを通行するときにはクレジットカードを使用することが多い。それと比較して、この非接触ICカード方式はどうか?
 紙製の通行券を痛めないように出し入れする面倒さがない点は、やはり便利である。領収書の取り扱いがないのも同様。雨の日などは、とくに利便性が向上すると思われる。また、入り口ゲートや料金所の通過に要する時間が、ちょっとだけだが短縮される。結局、利便性としてはクレジットカードより少しいいかな、という程度である。
 やはりETCのノンストップ通過の便利さには至らない。一時停止とカードの出し入れがある。ただ、こちらは少なくとも現状ではバイクが限定されておらず、複数のバイクを所有する人にはありがたい。また、実際に運用されるときには、先払い方式を選択すれば料金が割引になる、というシステムもありそうだ。
 現状では読みとり機の設置エリアは限定されている。機器が設置されたゲートに、それを示す大きな表示もない。また、読みとり機の角度をどのくらいに設定すればいいかも、いろいろとテスト中。まだ、あくまで試行運用である。モニターに当選した方々は、どんどん使って事務局にどんどん意見を述べていただきたい。
 二輪車にもETC方式、という案もまだ消えたわけではないが、機器の価格の問題がありそうだ。それに、ひとつの機器を使用できるバイクが特定されるとなると……?
 ともあれ。
 実際に使用するユーザーが、運営側と一緒になって新しいシステムを作っていく今回のプロセス。僕はかなりいいものだと思っている。モニターの講習や試験、アンケートなどが、すべてweb上で行われるところにも、新しい時代を感じている。このチャンスをうまく活かすことで、さらにまた『何か』ができそうに思う今日このごろだ。