☆03年型スズキGSX−R1000


 スズキの輸出車である2003年型GSX-R1000の発表試乗会が、同社の竜洋テストコースで開催された。日本国内での、初のテスト・ライドの機会となった。
 その高性能ぶりはすでに各専門誌等で報道されているが、実際に乗ってみての第一印象は、想像を超えた仕上がりの素晴らしさ、というものだった。ひとことで言えば、すべての反応、すべての挙動が格段に上質になっている。300km/hも可能と思われる最高速度などの、絶対性能ばかりに注目していると、その本質の素晴らしさを見失う。そこのところをキチンと伝えている報道がどれだけあったのか、という感想をもった。
 乗ってみて、作り手側の『本気』が肌にひしひしと伝わってきた。ただし、あまりにその完成度、トータルバランスの仕上がりが素晴らしいだけに、乗り手のほうも向上心や研究心を備えていないと、単に乗りやすいだけのバイクに思えてしまうかもしれない。
 これはその新型GSX-Rの速攻レポートだ。


●正攻法のスタイリング



 実物を前にすると、新型GSX-Rはかなり小さく見える。そして端正である。奇異なところがひとつもない。これは、素晴らしいことだと思う。
 従来型もけっこうイイカンジではあったが、基本的にナナハンと同様のそのスタイリングには、自己主張をしようとすることを先行させた部分がやや見受けられた。ハート形の横配置2灯ヘッドライト、両手の指で口を横に引き開いたようなラムエアダクト……。
 ところが新型では、すべてがごく自然である。ヘッドライトは、空気抵抗減少やラムエアダクトの効率アップをねらい縦配置だが、ハヤブサよりもはるかに練られたデザインとなり、しごく当たり前のようにフロントマスクに収まっている。ラムエアダクトも然り。そして、テールエンドへ向けてシャープに跳ね上がるデザインが、全身にうまく施されている。そんな中で、バブルスクリーンの高さを10mm増してウインドプロテクション効果を高めるといった配慮も仕組まれている。なかなか見事だ。
 小さく見えることを、スズキのスタッフは気にしていた。しかし、僕はこれでいいと思う。スーパースポーツは大きさ、車格を強調するものではないだろう。輝く小粒な存在であるべきだ。
 まあ、正直なところ強烈な個性というものは、個々の造形ほどには全体からは感じない。しかし、まずは普通にスポーティーであることが先決だ。個性のための個性ではなく、機能追求の真っ当なまとまりである現状を基盤に、今後ハッとするような自己主張が加味されていくことを期待する。さらに、小僧のバイクではないのだから、できればもう少し大人のスポーツ性を表現するカラー&グラフィックも加わると嬉しい。


●圧倒的なエンジン性能



 エンジンの基本構造は従来型を継承している。ただし、2気筒ごとを一体化し372gを軽量化したインジェクションボディには、マルチホール・タイプのインジェクターを装備。その噴射制御もまた、点火系とともに従来型より格段に高度なものとなっている。ピストン背圧を低減する構造の追加もあり、そのフィールは大きく変わった。
 まずは絶対性能の高さ。竜洋テストコースの70R最終コーナーを、ゆっくりと抜け出し、長い長いストレートに。約100km/h、3速ギヤで5500rpmほど。ここからフルスロットルに移行すると、こともなげにガンガンスピードが増す。フル加速を続けてほんの1kmで、デジタル表示の速度計は299km/hを示して動かなくなる。加速が止まったのではない。02年からは、これ以上の速度を表示しない自主規制が実施されているだけだ。
 その気になれば、5速ギヤでもメーターは299km/hを表示する。そのときの回転数は13000rpm。実際にはメーター誤差というものがあり、レヴリミッターの作動開始設定値は12300rpmだ。また、車速のほうにしても、今までの経験からこの速度域では20km/h以上は実速度よりメーターが多く表示する。それにしてもだ、バックミラーを装着したままの完全なストック状態のバイクが、これだけいとも簡単にメーターいっぱいの299km/hの表示をするとは。しかも、最終コーナーからその1kmの地点までは、ずっと登り坂なのだ! 6速ギヤにシフトアップしていれば、さらに速度は乗っていく!!! おそらく、速度リミッターがなく条件さえそろえば、最高速度は300km/hを超えるだろう。
 しかし、そうした絶対性能ばかりに目を奪われると、このエンジンの本当の価値を見失いかねない。最も素晴らしいのは、そのまとまりだ。
 まず、トルクのつながりのよさ。低回転域のスムーズさやトルクについては、そこそこ、という程度にしか感じなかったが、これはテストコースという場所柄かもしれない。それに、不満を感じるほどでもない。そして3500rpmあたりからは、ぐんぐんトルクが湧く。6000〜7000rpmあたりでググーッとトルクが増し、いよいよ本番……。と思ってその加速力に感心していると、さらに10000rpmからもう一段階、上の次元のパワーゾーンに突入し、ストレートに12300rpmからレッドゾーンに飛び込んでいくという、その排気量が信じられないほどの素晴らしい高回転の伸びが存在する。
 このように、パワーアップのポイントは確かに存在する。そして、4000〜5000rpmあたりから上では、どの回転域でもライバルより圧倒的に速い加速力を見せる。しかし、そこで急激にパワーが炸裂というのではなく、全回転域にわたって、トルクのつながりは極めていいのだ。従来型よりも、はるかにトルクのつながりがいい。しかも、その吹け上がりは極めて軽くシャープで、リッタークラスのエンジンというよりは、600ccクラスを操っている感じである。ものすごくフリクションが少ない感じだ。

 その強大なトルクとシャープな吹けであるにもかかわらず、神経質さが皆無。これは本心から驚異的だと思った。それは、適切なクランクマス、車体設定の巧みさ、そしてレスポンスの見事な調教による。スロットルレスポンスは、従来型でも非常に素晴らしいと思っていたが、新型はさらにハイレスポンスで、しかももっとスムーズ。コーナリング中に開け始めるときでも、まるで気遣いがいらない。
 誰もが気軽に、5000rpmでも12000rpmでも好きなだけ回して遊べる164馬力の988ccエンジンだ。


●操縦性の緻密な進化



 車体は、操縦安定性をGSX-R750の方向性にもっていくべく、フレームが新作された。メインチューブの素材がプレス成形のアルミ板をモナカ合わせに溶接したものから、「目の字断面」の押し出し材に変更されている。これは、従来型でも1000が予想以上に販売が好調で、そこから生産性を高めるという意味合いもあったと思われる。だが、フレームの剛性バランスを750の方向にし、なおかつ高い剛性値を与えて、となるとフレームの板厚を各部で変えやすくリブ構造も与えやすい、そんな押し出し材が有利だったという面も大きいのだ。
 その操縦性は、従来型と似て非なるもの。たとえば、ブレーキングしながらコーナーに飛び込む。体重移動を先行させつつ、目指すリーンポイントでブレーキをリリース。するとそこで、フロントがスッとバンクする。バンクすると同時に高い回頭性も発揮され、バイクのフロントまわりがスッとインへ向く。従来型のような、ノッタリと全体がリーンし穏やかに旋回力が立ち上がるような緩慢さがない。
 この、フロントまわりから素早くリーンし同時に前輪がインへ入るという挙動は、一歩間違えば、多くのライダーが不安を感じるタイプのものになる。それを承知で、不安を感じる一歩手前の『際』のところに挙動が設定されている。しかも、その挙動は素早いのだが、挙動の立ち上がりと収束がじつにきれいなので、ペタンと急激にバンクするとかカクンと曲がるとか、そういう唐突な印象とはならない。曲がろうと思った瞬間に素早くネて曲がる気持ちよさ、初期旋回の立ち上がりのよさや軽快感となる。また、その後の連続旋回へもスムーズに移行。トラクションをかけてからも、一定の旋回率を保ってぐんぐん曲がり続ける。
 簡単にネて曲がるが、前輪のセルフアライニングトルクが小さいことは心得ていたほうがいい。簡単に言えば、ハンドルの動きが軽い。だからといって、ハンドルに少しばかり余分な力をかけても不安定になるようなことはない。けれども、リーン後は即座に乗り手がハンドルから力を抜くことで、旋回率はグンとよくなる。これを把握しないと、新型GSX-Rが備える本当の価値が引き出せない。
 なお、通常のリーンから旋回というシーンはこのように格段の進化を遂げたが、切り返し時の引き起こしは、従来型同様に重く感じた。この点は、やはり750よりシリンダーヘッド位置が14mm高いエンジン形状が効いていると思われる。


 旋回特性以上に、誰もがこのバイクに乗ってすぐに実感できるのは、ブレーキングの素晴らしさだろう。新たに採用されたラジアルマウント方式のフロントキャリパーは、4パッド方式。その制動力は非常に高いと同時に、じつにリニアな効き味でコントロール性もいい。部品としての性能主張のために採用されていた6ポットキャリパーを捨て去ったことは大歓迎である。そして、そのコントロール性のよさには、じつはフロントフォークの作動性能の良さも効いている。
 ブレーキング時のピッチングモーションは、従来型に比して大きめである。挙動は大きいが、それは積極的にバイクの姿勢変化を作ってコーナリングにつなげるなどのプラス面こそあれ、不安定さなどマイナス面は皆無だ。ピッチング挙動の立ち上がり、及びその収束が、じつにスムーズなのである。したがって、ピッチング挙動自体は素早いけれど、ガクンと前下がりになる感じではない。それはまた、フロントタイヤへの急激な荷重移動が起こらないことを意味し、スムーズなブレーキの利き味を生み、限界点も高めている。後輪の無用なリフトを抑える働きも生む。
 これは、ダンパーピストンの作動速度が0.2m/sec前後かもっと遅い域での、非常に正確な減衰力コントロールができているためだ。そして、それを可能としているのは、驚異的なフリクションの少なさである。アモルファス構造の分子配列を持つカーボン素材をコーティングしたインナーチューブに限らず、各部の素材の工夫により、徹底してフリクションが低減された素晴らしいフォークだ。
 リヤサスのほうも、外観は従来型と大差ないが、フロント同様に内部構造が全面的に見直されており、軽量化しつつ、フリクションを大幅に低減している。テストコースという特殊な状況であっても、その乗り心地のよさ、そして極めて上質な作動感をストレートでさえ楽しめた。コーナーでスロットルを当てたときの後輪の反応も当然のように上質で、ガクンと突っ張るでもなく、安易なスクォート(沈み込み)もない。タイヤに余計なショックを与えることなく、スッとサスペンションの位置が決まる。


●本物のマニア仕様になったR1000



 ライディング・ポジションも見直されている。ガソリンタンクが作り直され、ニーグリップ部が細く絞られて体重移動などがしやすくなった。座面がやや高くなり、足つき性は少々低下したようだが、ハンドル位置の変更(低めの前)と合わせ、積極的な操作をしやすいものとなった。従来のように、加速時は尻が後方へ下がったりシートにめり込んでハンドルにぶら下がる感じ、にはなりにくい。
 シートクッションはやや柔らかい気もしたが、これでも従来型よりは硬度が上げられていて、クルージング時の座り心地も悪くなさそうだ。ステップまわりの作りは、スズキ車は概して安易な感じのものが多いが、新型GSX-Rではヒールガードも後方へ向けてカーブしたものとなり、今回の試乗では違和感がなかった。

 このように、すべての面で進化したGSX-R1000である。ただ、ジェットコースターに乗って得られるような快感、ビックリ箱的すごさ、受け身的なアグレッシブ感という面では、従来型よりも希薄になったと言えるかもしれない。
 エンジンは素晴らしい絶対性能を誇るが、その極めてスムーズな特性により『速さ感』は意外とない。そして、そのエンジン特性と高度な作動性能を誇る前後サスペンションのおかげで、ウイリーすらしにくいのだ。従来型のように、200km/hオーバーでも前輪が浮いてくるというようなことはない。意図的に浮かす場合は別として、普通の乗車姿勢のまま余計なことをしなければ、1速ギヤでフル加速しても10cmほど前輪が浮いた状態をキープし真っ直ぐに加速する。つまり、本当の高性能が備わっているということなのだが……。
 スタイルも機能も、すべての面で本物の高性能とスポーツ性を理解するライダーたちに向けた真面目な作り込み。新型GSX-R1000は、そんなバイクだと感じた。