☆R1150RT


 BMWのR1150RTがデビューした。のんびりと流す快適さ、などという一部の日本的ツアラー感覚ではとても語り尽くせない高度な機能と真の意味での速さを、長年に渡って追求し構築してきたBMWというブランドの中でも、最もBMWらしいモデルがRTシリーズである。従来のR1100RTも、完成度の高さが世界中のライダー、あるいは各メーカーから評価されていたが、今回のモデルチェンジによってそのレベルがまた一段と高まった。
 エンジンは若干の排気量増大に加えて各種の改良が施され、全域でトルクが向上。とくに低中速での加速力がアップしている。加えて、レスポンスがよりスムーズになり、回転フィールにも艶が出て心地よくなった。ハンドリングは、鉄壁の安定性とニュートラルさに、さらに磨きがかかっている。平行リンク式のリヤサス=パラレバーシステムは、オーバードライブ的な6速ミッション(従来の5速より全長が長い)の新規採用にあわせて刷新されているが、シャフト駆動のデメリットを皆無とするその機能は従来以上。ステアリングヘッドを持たないテレレバー方式のフロントサスは、車体の高い安定性をやはり従来型以上に生み出す。

 長距離ツーリングが主題なのだから、当然のように積載性への配慮は十分だ。フルフェイスのヘルメットが楽に収まるパニアケースを左右に標準装備する。脱着はいたって容易で、エンジンキーをケースにさし込めばワンタッチだ。オプションで、タンデムライダーの背もたれにもなるトップケースも用意されている。また、このケースに重い荷物をフル積載した状態でも、容易にメインスタンドをかけられるように、収納式のシッカリした、そして美しいアルミ製のアシストグリップが備わっているあたり、ツアラーに何が必要かを熟知していることが伺える。

 空力性能も、完璧といえるほどの仕上がり。元祖と言える電動シールドをアジャストすれば、市街地レベルの速度域から超高速まで、そしてタンデムでも、走行風圧を見事に軽減してくれる。ホンダのゴールドウイングのような巨漢ツアラーとは違い、クルマのごとく「風を感じない」のではなく、あらゆる速度で効率的に空気の壁を切り裂いて行く感じである。バックミラーもその空力パーツのひとつであり、グリップまわりを襲う風雨をじつにうまく避けてくれる。ちなみに、このミラーは腕の下から後方を見るもので、後方視認性が非常によく、またその前面はウインカーになっている。
 このように、非の打ち所がないほどの仕上がりを見せるRTだが、ただ1点、ブレーキに関してはかなりの疑問を提示せざるを得ない。軽くかけたつもりでも、即座にほとんどフルブレーキング状態になってしまうほどで、簡単に言えば効きすぎ。もう少し正確に言えば、制動力が極端に高いことに加え、その効力の立ち上がり方もリニアとは言い難く、走り込めば慣れるというものでもない。しかも、前後連動。前後の制動力配分にライダーが介在する余地はなくコンピューター任せで、それも常に最大限の制動力を発揮させるべくフロントを強く効かせてしまう。100km/h以上ならともかく、ABS標準装備とは言えUターンを筆頭とする60km/h以下の速度域ではバランスを崩す可能性が非常に高い。日本車のブレーキは効きすぎで、絶対制動力よりも真に制動距離を短縮できる握り込んでからのコントロール性が重要……と主張してきたBMWの方針は、いったいどうなったのか。そこには、ツアラーであろうとなかろうと絶対に必要な操る楽しみという、バイクの一番重要なテーマも欠落している。
 しかしながら、このブレーキの不自然さに関しては、過去のBMWの例を考えれば数ヶ月単位で改良を繰り返し、順次市場投入してくるものと思われる。しばらく様子を見守りたい。待つだけの価値はある。ほかの部分はじつに素晴らしい仕上がりなのだから。


●パワーアシスト付き前後連動ブレーキ


 タバコの箱と大きさを較べてほしい。システム的にはずっと複雑になったにも関わらず、新型のABSのモジュレーターユニットは、パワーアシスト用の電磁ポンプも含めた状態で、奥にある従来型のものより格段に小型化されている。重量も5.2kgから4.1kgに軽量化。これが写真のように、ガソリンタンク下のバッテリー前方という車体重心近くに配置され、操縦性への影響を最少限としている。
 ブレーキレバー、あるいはペダルを作動させると、ブレーキスイッチからの電気信号で電磁ポンプが作動し、ブレーキキャリパーに油圧をかける。油圧の強さは、理論的にはレバーやペダルのストローク量に比例する設定だが、とにかく手足に加えた力がそのままキャリパーへの油圧になるのではない。少ない入力でも強く効かせるためのアシスト機構だが、それは前後連動システムと関係していると思われる。ホンダのCBR1100XXなどでも、たとえばペダル操作だけで前輪も強く効かせようとすると、かなりの力がいる。BMWは、レバーでもペダルでも、どちらか一方だけで最大限の制動力を容易に発揮させようと考えたのだろう。そう、前後のブレーキ配分をライダーに依存する部分がないのだ。
 BMWの場合、ライダーが行うのは「制動するぞ」という意志を入力するだけであり、前後のブレーキ配分はコンピューターが決める。ペダルでも、レバーでも、どちらの操作でも「制動開始」という命令に変わりはなく、前後の配分は同じだ。
BMWは、こうしたブレーキシステムを一気に拡大している。ただ、ここで述べた完全な前後連動=フルインテグラルシステムは、このRTとK1200LTが採用し、そのほかのR1150RやK1200RSなどは、ペダル操作に関しては後輪ブレーキだけが作動するパーシャルインテグラル方式としている。スポーツ性を考慮して、というのがBMW側のコメントだ。もっとも、パーシャル方式でも例のパワーアシストによる強烈な効きであり、またレバー操作ではフルインテグラルと同じ効き方になる。


●ブレーキ改善の兆候がSやK−RSにあった

 RTと同時期に試乗したR1150Rロードスターは、パーシャルインテグラル方式であるため、低速でのコントロール時にはペダル操作により後輪だけにブレーキがかけられる分だけ、RTと比較すれば扱いやすい。僕としては、RTも最低限、この方式にするべきだと思う。とはいえ、ごく軽くかける先ではいきなりフルブレーキングに近い状態になる特性は同じ。普通のバイクの感覚で乗れるとは言えない。
 ということなのだが、上記のレポートをアップしたのちに試乗したスポーティーさが売りの水平対向2気筒車R1100S、及び高速スポーツツアラーの縦置き直4車K1200RSでは、様子がかなり違っていた。この2車はパーシャルインテグラルなのだが、根本的にパワーアシストの設定が改善されているのである。混雑した市街地を走るような状況で、微妙な速度調整やスムーズな停止が、レバー操作でわりと普通にできる。パワーアシストの程度、そして握り込んでいくときのアシスト量の変移が、明らかにRTやロードスタートは違っている。そして超高速域などでは、レバーにかけた2本の指で容易にフルブレーキングまで持ち込め、パワーアシストのありがたさを実感した。
 BMWジャパンによる公式コメントでは、ロードスタートとまったく同じシステム及びコンピューターのプログラムを使用している、としている。しかし、実際のフィーリングはまるで違う。完璧と言うにはまだリニアリティが不足しているし、通常のバイクから乗り換えれば多少の慣れが必要なのは確か。だが、大幅な進歩がそこにはあった。もしかすると、実際にユーザーの手に渡るRTも、我々が試乗した初期ロットより改善されたものになっているかもしれない。このあたりは「仕様は予告なく変更される場合がある」というパターンであり、国産車にもよくあることだが、とにかく、各自で試乗して確認していただきたい。まことに申し訳ないが、ジャーナリストとして責任を持ちきれないのである。


●FJRと比較する


 ヤマハの新鋭機種、FJR1300はスポーツ性の高さを加味したツアラーとしてデビューした。確かにその水冷直4エンジンが生む、マルチならではの鋭い吹け上がり感や高回転域での強烈なパワーなどにはスポーツ性を感じるし、総体的な乗り味として日本製スーパースポーツで育ったライダーにも馴染みやすいバイクとも言える。しかし、ツアラーとしての機能、それは快適性のみならずハードなツーリングにおけるポテンシャルという意味も含むのだが、そこで比較すれば、特異なブレーキを除いて、RTのほうがあらゆる面で勝っている。
 まずエンジン性能では、RTの水平対向2気筒は低中速の豊かなトルクにより追い越し加速でタコメーターをチェックする必要などなく、荒れた路面でのトラクション性能も高い。絶対パワーは劣っていても、数日間に渡って1000キロ単位で移動する状況においては、RTのほうが楽で速い。そして車体の安定性の高さ、コーナーの状況や乗り方に寛容な操縦性、倒し込みや切り返しの軽さ、さらに絶対的な旋回性までもが、RTのほうが上手である。ウインドプロテクション機能も、無理に車体をコンパクトにしていないため、アップライトな乗車姿勢のまま160km/h以上まで見事だ。走行風が綺麗に体の周囲を流れていく。
 タテマエはともかく、実際にはRTを強く意識して開発されたFJRだが、そこには無意識のうちにもスーパースポーツを基点としてツアラーの世界に踏み込んだ、そういう匂いが漂う。それは、今やヤマハの開発陣が誰よりも感じていることであろう。しかし、正面切ってこうしたヨーロッピアンツアラーを作った経験がほとんどないのだから、無理もない。そんな話を、某所でFJRの開発陣としていたら、時間は瞬く間に過ぎていった。今後の積極的な改良を誓う彼らの仕事に、僕は注目し続けたい。まずは、ABSが装備されるであろう次のバージョンでいかなる進化を成し遂げているかに期待する。