☆BIGオフローダーに乗る


 ビッグオフローダーに乗った。雑誌の取材だったが、こうした企画は珍しい。企画成立の背景にはBMWのR1150GSが売れ行き好調ということがあるにしても、やはり世の多数を占める人気者ではない。こうしたバイクが紙面を飾ることはけして多くはないのだ。多くはないが、いいバイクたちである。今回の取材は2日間にわたって行われ、不幸にも両日とも雨で、幸運にもこの種のバイクの素晴らしさを再確認させてくれた。撮影のために雨中で打ち合わせたり、同じところを何度も往復したりは苦痛だったが、それ以外は、降りっぱなしの道中がきわめて愉快だった。高速道路もワインディングも林道も田園風景も、爽快に駆け抜けながら深く鮮やかに濡れた緑を堪能できた。ほかのバイクだったら、どうだっただろうか。R1150GS、それにホンダのアフリカツインの2台は、公道バイクスポーツの本質を教えてくれるように思う。
 奇異な外観で異様にデカく、足つき性も悪い。入口部分でこの手のバイクは敷居が高いかもしれないが、その分だけハッタリも効く。自己主張の強さ、押し出しの強さは、この手のバイクの大きな価値だ。でも、それだけではない。
 どんなシーンでも余裕を持って走破できる。道を選ばないというのは大きなメリットだ。メインルートを走っていて面白そうな脇道を発見したときなど、躊躇せずに飛び込んでいける。そこで舗装が切れてしまっても、慌てる必要がない。いや、実際にどこを走るかではなく、どこでも走れると思えるだけで素晴らしいではないか。
 実際、タイトなUターンなどは大型オンロードバイクよりずっと簡単。アップライトなライディングポジションで、ハンドルは元々が思いきり振りまわせる形状だしハンドル切れ角も大きい。ホイールベースは長めだが、狭い路地などでも250ccのロードスポーツ車と同等かそれ以上の小回り性能を発揮する。これがまず、どこへでも飛び込んでいく気にさせる大きな要素だ。
 そして、根本的な車体構成が積極的な操縦に都合よくできている。まず、バイクで最も重い部品であるエンジンが、着座位置に近いところにある。自分の懐の内に重心を抱える感覚で、これが意志を持って操るときの機敏さを生む。一方、ステアリングヘッドの位置が適度に高い。一般オンロード車よりは高いが、モトクロッサーレプリカ的なオフ車よりは低いステアリングヘッドの位置が、過敏すぎず鈍重すぎない操縦性を生む。
 こうした車体バランスが、舗装路のワインディングで高い性能を発揮する。たとえ雨降りでも。ダート路面も、競技的なオフテクニックに傾倒せずバイクの基本どおりに操れば、風のように走り抜けて行ける。フレキシブルなエンジン、それなりのウインドプロテクション機能などにより、数百kmに及ぶ高速巡航も平然とこなせる。
 これがビッグオフローダー。250km/h巡航など不可能で、舗装路だって山道が多く道幅も狭い日本では、最も有能なスポーツバイクでありツアラーかもしれない。このあたり、僕の著書である「ビッグバイクの探求」でも述べている。


●BMW R1150GS


 水平対向2気筒のエンジンは、以前のOHV型のように湿潤で艶のある鼓動とまではいかないが、かなりこなれてきてガサツ感が取れ、熟成の域に入りつつある。そして公道スポーツとしてのポテンシャルは文句なしに高い。低いギヤなら1000rpm少々でも走れるほど低回転で粘り、3000〜6500rpmの域では常に最大トルクの90%以上発揮するフラットで力強い特性だ。レスポンスもスムーズかつリニア。高速道路を逮捕速度で巡航することも、農作業に出かけるカブのお父さんと会話しつつ併走することも、ストレスなくできる。オフでのトラクション性能もまずまず。
 車体構成はオン寄りだ。フロントのテレレバーサスは縦方向の剛性が高く、通常のテレスコピック式のように前後にしならないので、ガレ場などでの衝撃吸収性が低い。そのテレレバー採用のため前輪には21インチが使えず19インチであり、これはギャップ乗り越え性能を落としている。シャフト駆動なので後輪のバネ下も重い。それでも、通常の作業車が入るような林道などは、まるで問題がない。そして、その車体構成のおかげで高速走行や制動時の安定性のよさは通常のオフ車の域ではないどころか、そこらのネイキッドよりよっぽど優れている。舗装路のコーナリング性能でもオフ車的ストレスは皆無。強力なブレーキはABS付き。まあ、ガレ場や砂利道の下りなどではABSが働くとまるで止まれなくなるが、そんなときのためにABSをカットできるようになっているのが偉い。
 ライディングポジションは、2段調節式のシートを高い位置にしてもハンドルが不自然に高くて遠い。ステップまわりのフィット感も悪く、マン/マシンのインターフェイスに関しては無神経さを感じる。足着き性は、低いほうのシート位置にすればアフリカツインより少しいい。


●ホンダ アフリカツイン


 BMWはパリ〜ダカールラリーで81〜85年の間に4勝しており、そのレプリカとして過去のR100GS系が人気を呼んだ。一方アフリカツインは、生粋のパリダカ用ワークスマシンNXR(4連勝の記録がある)のレプリカから出発している。1988年デビューの初代は排気量647cc。これが90年、ボア・ストロークともに拡大して742ccになり、車体も剛性アップなど大幅に手が加えられた。が、パワーは増大したけれども操縦性が鈍重だった。それが93年に大幅改良。外装部品の多くは従来型を継承しつつも、フレームやサスは一新。重量配分も完全に見直され……。
 こうして熟成されてきたバイクなのである。エンジンは非常にフレキシブルな特性。180km/h巡航を望むならともかく、日本の道を走りまわるには必要にして充分なパワーだ。中速から上では、若干振動が多くなるものの闊達なVツインの鼓動は走ることへの活力を湧かせ、またクルージング時のBGMとしても悪くない。欲を言えば3000rpm前後のトルクが薄めで、もっと低い回転域ではギクシャクしがちなのが場面によってはカッタルく、この排気量でそこそこパワーも稼ぐのだから厳しいところもあろうが、96年に仕様変更される以前のモデルはもう少しよかった。
 車体はオフ車的で、高速走行時の安定性はたいしたものじゃないが、かといって大きな問題もない。意外なほどウインドプロテクション性能が高く、クルージングは快適である。そして低速での取りまわしやすさ、オンロードの峠道での意外な速さ、さらにはこの手のバイクとしてはトップクラスに位置するオフロードの走りやすさなど、じつに素晴らしい走行機能のバランスを備えている。標準装備される多機能デジタルメーターも便利。
 ライディングポジションは、適度なコンパクトさだ。ハンドルは積極的に操りやすい低さと近さながら、グリップの絞り角度が大きめでクルージングでも楽、というように熟成されたバランスである。もっとも、シートはもう少し幅広くクッションにもコシがあるほうが、こうしたバイクには似合うと思う。足つき性は、身長170cmの僕で両足の「ツマ先」ではなく「指の付け根」が接地するから、慣れれば問題はない。
 なお、排ガス規制に対応する車両の開発が行われている様子は今のところなく、この調子で行くとアフリカツインは市場から消えてしまう可能性もあり得る。