☆2005年ホンダ年央社長記者会見


「この春から新しい3ヵ年計画、第9次中期計画がスタートしました。先の8次中期では、存在を期待される企業となるという2010年ビジョンに向けて、2,000万人のお客様の喜びを実現し、企業としての自主自立を貫くことを目指しました」。
 2005年7月20日に東京は青山の本田技研工業本社にて開催された年央社長記者会見は、福井威夫社長のこのような言葉から始まった。そこにはホンダのなみなみならぬ意気込みと決意が現れていた。
 最近の業績や今後の販売台数などに関する数字はともかく、福井氏のスピーチにおいてとくに印象深かったのは、今後とも自主独立の道を歩み、その歩みを続けるために徹底して技術開発に力を入れてゆく、という部分である。上右写真にある、近年のホンダの技術開発に対する投資額の度合いは、口先だけではないぞ、という自己主張を迫力を持って裏付けていたのだった。小手先のマネー操作や、目新しさで顧客を惹きつけることで稼ぎを増やす、というのではなく、根本的な技術力そのもので勝負していくぞ、という宣言である。じつに格好良い。
「研究開発領域は、Hondaらしさの原点である独自の新技術や商品を生み出す源泉。とくにエンジン、トランスミッション、モーターなどのパワートレインは、走る楽しみ、自由に移動する喜びの原動力であると同時に、エミッション、CO2など地球環境への負荷を低減し世界中でモビリティを提供し続けていくための基盤技術であります。二輪、四輪、汎用、次世代モビリティすべてにわたり、競争力の源泉であるパワートレインの革新にチャレンジしていきます」。
 会場では、OHPにより各種データや技術開設が行われ、それをデジカメにて撮影した。汚い写真ながら、非常に興味深く紹介したいものも多々あった。
 このスピーチの骨子はホンダのwebサイトでも閲覧できるが、その中から二輪関係を中心に興味深い部分をピックアップし、会場で公開されたOHP映像とともに紹介する。


●可変気筒エンジンを二輪車にも採用


「大型二輪車向けに四輪車の可変シリンダー技術を応用し、二輪の特性に合わせ、ハイパーVTECと融合させた二輪車用可変シリンダーシステムを新開発。2シリンダー・2バルブから4シリンダー・4バルブまで4つのステージで自在にバルブの開閉をコントロールし、燃費と走りを高次元で両立させ、05年比約30%の燃費向上を目指す」。
 ホンダでは2003年より、クルマのインスパイアから可変シリンダーシステム(VCM)を投入している。出力を多く必要としないクルージング時などに、一部の気筒を休止させ燃費を向上させるシステムだ。ユーザーが経済的に得をするという部分のみならず、化石燃料の節約と、地球汚染物質の排出抑制が目的のメカである。具体的には、一部の気筒の吸排気バルブの作動を停止し燃料供給も遮断するものだ。このシステムを二輪車にも採用することが、この記者会見で宣言された。
 概要はOHPの映像が端的に表している。従来のように、単純に2気筒を休止するだけではなく、2→3→4気筒と変化させ、かつ2バルブ作動から4バルブ作動までの変化も行う。どの機種に採用するかの説明はなかったが、かなり具体的である。今秋のパリショーなり東京モーターショーでは、少なくともコンセプトモデルとしての提示があるのではないか。
 そう、すでにクルマでは基本的なVCM機構は採用されているのである。そしてそのクルマのほうも、さらに進化したシステムになるという。


●超低フリクションエンジンなど


「4スト化、FI化などの取り組みをスクーター、小型モーターサイクル、大型モーターサイクルの各々の分野で進めてきた。これらにより2005年の燃費は95年比で約34%の向上。9中では、これらに加えてさらに新しいエンジン技術を投入する」。
「世界的に台数の多い100〜125ccクラスのエンジンに、2プラグ化などで燃焼効率を向上させると共に、フリクションを徹底的に低減した、世界最高レベルの低フリクションエンジンを開発中。世界でもっとも台数の多いこのクラスにおいて、05年比で約13%の燃費向上を目指す」。
 小型車では、ベアリング組み込み構造のロッカーアーム採用などにより、フリクションを極限まで減らしたエンジンを投入していくという。燃費向上目標は、05年比で+13%とのこと。先の可変気筒エンジンでは+30%である。
 また、南米では以前より、サトウキビを原料にしたアルコールを燃料にするモーターサイクルが実用的に使用されているが、そのアルコールの混合比に広く対応するエンジンも投入される。
「ブラジルで普及の進むアルコール燃料に、Hondaは80年代半ばから二輪で、そして四輪でも対応を図ってきた。10%混入、20%、25%とアルコール混入率が上がってきたが、現在ではE100と呼ばれる100%アルコールも販売されており、Hondaは、どのようなアルコール混合率でも走行可能なFlexFuel車を2006年中には投入する」。


●燃料電池二輪車の投入


「未来のパワーソースである燃料電池が本格的普及に至るまで、乗用車のパワートレインの主流はこれからも少なくとも20年以上は引き続きガソリン、ディーゼル、ハイブリッド、天然ガスなどによる内燃機関であり続ける。人が自由に移動するためのモビリティのほとんどを駆動している内燃機関において、エネルギー効率をさらに高め、CO2排出量をミニマイズしていくことこそが、地球環境に今出来る、最も効果的な手段と考える」としながらも、燃料電池車を独自開発することへも非常に積極的だ。
 クルマでは本年6月より、公官庁などだけではなく一般にもFCXのリース販売を開始したホンダである。まだまだ実用的とは言い難い燃料電池車だが、一般ユーザーに提供という意味は大きい。「内輪でのポーズ」ではすまされないからだ。本当の意味で企業としての真価が問われる。
 そして、二輪車でもついに、燃料電池車を一般民間にリース販売という形で投入する。計画では2009年のことだ。試作車としてはすでに存在していてその映像はこのwebサイトでもレポートしたが、これは一般公道を走行するものであり、しかも一般へのリースである。ヤマハのダイレクトメタノール型燃料電池車もアピール性はあったが、いきなり水素仕様の本格燃料電池二輪車を一般供与というのは、ものすごい意気込み、という印象だ。


●可変ストロークエンジン


 これは二輪車用エンジンではなく、発電機や揚水ポンプ、ベルトコンベヤーなどに使用される汎用エンジンの話しであるが、非常に興味深い技術なので掲載する。
 ホンダはすでに、様々な使用条件に対応する高知能な汎用エンジンを市販している。たとえば、バッテリーを備えないシンプルな構造ながら、負荷が変化してもコンピューター制御で一定の回転を保つ、といった機能を持つものだ。そして、汎用機の分野でも徹底して省燃費と排ガスのクリーン化を進めている。
 そして今回発表されたのが、可変ストロークエンジンだ。
 この開発中の次世代型汎用エンジンは、吸気/圧縮工程に対し、膨張/排気工程のストロークを1.5倍ほど長くする構造を備える。いわゆる高膨張比エンジンだ。
 通常のエンジンでは、まだエネルギーを備えている既燃焼ガスを高温高圧のまま大気に放出してしまう。だが、このエンジンではそのエネルギーをさらに活用するために、膨張行程のときににはストロークを長く変えてしまうのである。
 原理的には、はるか昔に発案されたアトキンソン・サイクル・エンジンと基本概念は同じであるが、そもそも内燃機に関する新発明など、近年にはほとんどない。レシプロ内燃機に関するアイデアの類は、あらかたが1912年のプジョーL76(DOHC4バルブでありデスモドロミック駆動)あたりまでに出尽くしている。けれども、ちゃんと性能を発揮でき、しかも一般市販商品として成立させるには、高度な技術力と多大な努力と膨大な時間がいる。これはその一例と言えよう。このシステムによる燃費向上は、現状の汎用エンジンに対して20%アップを目標としている。すでに実験室での運転を開始している。


●バルブ開閉の度合いを連続可変


 これはクルマ用のエンジンとして発表されたものだが、ごく基本的な技術部分であり、二輪車への採用もあり得ると思われるので掲載する。
 吸排気バルブの開閉タイミングやリフト量を可変とするシステムは、今やクルマの世界ではごく常識的なものとなっている。その機構には様々な方式があり、ホンダでも一様ではなく各種の方式を持っているが、同社では総称してVTECと称している。そのシステムを、一段と高度化するとのことだ。
「9次中期末に投入予定の進化型VTECは、吸気バルブのリフト量や、バルブ開閉タイミングである位相を自在に連続可変制御することで、吸入エア量をコントロールし、スロットルバルブで発生するポンピングロスを大幅に低減する。高負荷時にはバルブを大きく、長い時間開き、吸入エア量を最大化させる。軽負荷時にはバルブのリフト量と開いている時間を抑え、吸入エア量をポンピングロスなしで調節する。アイドリング時にはリフト量を最小に、また、バルブが開く時間もわずかにし、吸入エア量をポンピングロスなしに絞る。これら革新的バルブコントロールや吸気管長制御により燃焼効率を通常エンジンに比べて約13%向上させる」。
 通常のエンジンでは、吸気系にスロットルバルブという絞り弁を設け、最大出力を必要としない場面(走行時間のうちのほとんど)ではこれを適当に閉じて、出力を抑えている。つまり、わざわざ吸気抵抗=ポンピングロスを作ってパワー制御しているのだ。しかしこの進化型VTECでは、吸排気バルブの開閉度合いそのものでパワー制御する。わざわざ抵抗を作らないので、燃費が向上するわけだ。社長の公式スピーチでは直接的には言及されなかったが、現場にいた技術者氏の話では、スロットルバルブなしのエンジンを目指しているという。
 これは、一昨年の東京モーターショーに参考出品された、スズキの連続可変ミラーサイクルエンジンと考え方が似ている。あれも、ミラーサイクル部分(吸気バルブを早めに閉じ、膨張行程を活かす=可変ストロークと似た考え)は一部分であり、スロットルグリップを大きくひねると通常エンジンになる。吸排気バルブの開閉具合を連続的に変化させる機構は、スズキでは複雑な三次曲面のカムシャフトだった。さてホンダは、どんな動弁機構を採用するのか。斬新かつシンプルなメカを期待するが、何よりもこちらは、市場投入を公言しているのだから楽しみだ。


●すべてにおいて攻撃視線

 写真のOHPは、ホンダが生産するクルマのハイテク機構の多くが内製であることを示している。通常、モーターであるとかCVT=無断変速機の駆動ベルトといったものは、専業部品メーカーに発注する。しかしホンダは、これらも自社制作しているぞ、ということをアピールしているのだ。何でも社内で生産するのがエライということではないけれど、今後のクルマやバイクの進化においてキモとなる部分の部品は、自社で開発し、なおかつ生産も行う。燃料電池スタックですら、ホンダは自社で開発している。他に頼らない自主独立の精神。その姿勢は、非常にアグレッシブと言えよう。
 それは地上を走る乗り物だけではない。以前より開発が進められているジェット機のほうも、かなり完成度が高まったようだ。
「アメリカのウィスコンシン州Oshkoshで開かれる実験機の祭典Air Ventureで、7月28日に、HondaJetがデモフライトを行う。2003年12月に初飛行して以来、合計150時間の飛行試験を重ね、これまでに最高高度は13,000m、最高速度は728km/hというテスト結果も出ている。優れた空力性能とHF118エンジンの低燃費性能を合わせ、同クラスの既存機との比較で燃費を4割向上させるHondaJetの実験を今後も継続していく」。
 そして、スポーツのホンダをアピールすることも忘れていない。
 国産車では珍しい純粋なスポーツカー、NSXが本年いっぱいで生産を終了することはすでに発表された。生産終了を公表すること自体が異例なのだが、新聞などでは、排ガス規制に対応できなくなったので生産を終えた---みたいな表現があった。これに抗議するかのように、以下のようなコメントが出された。
「NSXの後継としてV10エンジンを搭載したスポーツモデルを鋭意開発中です。F1では現状のところ苦戦しているが、そこで得た技術をフルに注ぎ込み、かつ新しい時代に相応しいスーパースポーツを開発しています。あらゆる面で本当に最高のものを目指していますので、少しばかり時間をください。3〜4年後には披露したい」。
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 なんだか、ホンダってすごいな、と思わざるを得ない記者会見であった。他の二輪メーカーとは、申し訳ないがスケールの次元が違うという印象だ。その体力、底力を堅持しつつ、同時にスポーツバイクの商品性において最も重要となる『遊びの心』も、さらにパワフルに表現していただきたいものだ。実のところはホンダという企業が本質的に備えている「てやんでぇっ、べらぼーめ」的な危ない部分を、社会性を鑑みつつ巧みに投入したバイクなんかができたなら、他メーカーは真っ青であろう。

<以上>